この記事でわかること
1. 退職給付金という「箱」の中身は、一時金と企業年金
2. 【退職一時金】就業規則に定めがなければ支給されない
3. 【厚生年金基金】加入20年が受給権の分かれ目
4. 【企業型DC】10年に足りないと受け取りは61〜65歳へ
5. もらい忘れは後から請求できる。時効5年の中身
6. 請求先は制度ごとに別。連合会・機構・JIS&T
7. 会社が倒産していても、記録は残っている
「退職金」と「退職給付金」。この2つを別の制度だと思っている人は多い。実際には上下の関係にある。退職給付金という大きな箱があり、その中に一括で受け取る「退職一時金」と、分割で受け取る「企業年金」が入っている。厚生労働省の調査でも「退職給付(一時金・年金)」とひとくくりで呼ばれる。
呼び名の整理で終わる話ではない。箱の中身によって、もらえる条件も請求する先も違う。そして請求を忘れたまま放置している人が、企業年金連合会の分だけで103万2000人いる。令和8年3月末時点の数字だ。
退職給付金は「箱」、退職金と企業年金は「中身」
厚労省の令和5年就労条件総合調査によると、勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者1人あたりの平均退職給付額は、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で1896万円だった。高校卒(管理・事務・技術職)が1682万円、高校卒(現業職)が1183万円となっている。
同じ調査を制度の形態別に見ると、退職一時金制度のみの企業が1623万円、退職年金制度のみが1801万円、両制度併用が2261万円だ。一時金だけの会社より、年金も併用している会社のほうが600万円以上多い。
企業年金には確定給付企業年金(DB)、企業型確定拠出年金(DC)、厚生年金基金といった種類がある。以下、この3つと退職一時金について、もらえる条件を順に見ていく。
1 退職一時金 勤続年数の条件は会社ごとに違う
最初に押さえておきたいのは、退職金の支払いは法律上の義務ではないという点だ。厚労省も、法律上一般的に義務づけられているわけではないとしている。
もらえるかどうかを決めるのは就業規則や労働協約だ。そこに支給条件が明確に定められている場合、退職金は労働基準法11条の「労働の対償」としての賃金にあたり、会社に支払い義務が生じる。逆にいえば、就業規則に退職金の定めがない会社なら、勤続40年でも支給されない。
勤続年数の条件も会社ごとに決まる。「勤続3年以上」と定める会社が多く、中央労働委員会の調査では所要勤続年数の平均は3.7年だった。自己都合退職では支給率を下げる会社も多い。まず就業規則の退職金規程を見るのが出発点になる。
時効は5年だ。退職手当の請求権は労働基準法で5年と定められており、2020年4月の改正で一般の賃金が3年になった後もここは変わっていない。会社に請求できるのは、退職から5年と考えておきたい。
2 厚生年金基金 加入20年が分かれ目
厚生年金基金は、加入期間20年が境目になる。20年以上勤めて受給権を得た人は基金から年金を受け取る。20年未満で辞めた人は受給権が立たず「中途脱退者」として原資が企業年金連合会に移り、連合会から受け取ることになる。103万2000人の多くがここに当たる。
支給開始年齢は原則として国の老齢厚生年金と同じで、性別と生年月日によって決まる。
3 確定給付企業年金 規約の定めしだい
確定給付企業年金は平成30年5月以降、加入年数ではなく規約が定める脱退一時金の受給要件を満たすかどうかで中途脱退者になるかが決まる。会社ごとに条件が違うので、自分のケースは規約か連合会への照会で確かめるほかない。
4 企業型DC 10年に足りないと受け取りが遅れる

企業型DCは加入期間の長さで金額ではなく受け取れる年齢が変わる。通算加入者等期間が10年以上あれば60歳から受給できるが、10年に満たないと段階的に繰り下がる。8年以上10年未満で61歳、6年以上8年未満で62歳、4年以上6年未満で63歳、2年以上4年未満で64歳、1か月以上2年未満なら65歳からだ。
60歳前に現金化できるのは例外的な場合に限られる。脱退一時金を受け取れるのは、掛金を出した期間が5年以下か資産額が25万円以下といった要件を満たすときだけだ。
もらい忘れていたら、いつまでさかのぼれるのか
企業年金連合会によると、令和8年3月末時点で老齢年金の裁定請求書を出していない人が103万2000人いる。内訳は請求書が届いていない不達者が68万人、書類は届いたが手続きをしていない請求保留者が35万2000人だ。
結論からいえば、気づいた時点で請求すれば受け取れる。連合会は、手続きが遅れても受給権が発生した月の翌月分から受給できる点は変わらないとしている。
気に留めたいのが時効の仕組みだ。確定給付企業年金法と厚生年金保険法は、年金を受け取る権利そのもの(基本権)は支給事由が生じた日から5年、各支払月に受け取る権利(支分権)は支払期月の翌月初日から5年で時効消滅すると定める。文字どおり読めば、5年以上前の分は失われることになる。
ただし国の年金では、平成19年7月7日以降に受給権が発生した分の支分権は5年を過ぎても自動的には消えず、国が個別に時効を援用して初めて消滅する扱いになっている。基本権についても、やむを得ない事情を書面で申し立てれば時効消滅させない取扱いがある。
つまり原則はさかのぼって受け取れる。放置が長いほど古い分を失うおそれがあるという構造で、もう手遅れだろうと決めつけて請求しないのが、いちばんもったいない。
企業型DCの放置は、時効ではなく目減りで損をする
企業型DCは事情が違う。厚労省の資料によると、令和4年3月末時点で自動移換者は約66万人、資産額は約2819億円にのぼる。資産額0円の人を含めると約118万3000人になる。
退職して6か月以内に移換の手続きをしないと、資産は国民年金基金連合会へ自動的に移される。自動移換されると運用が止まり、手数料だけが引かれ続ける。さらにその期間は受給に必要な通算加入者等期間に算入されないため、受け取れる年齢まで遅れる。
資産そのものが時効で消えるわけではない。自動移換された後でもiDeCoなどへ移す手続きはできる。気づいた時点で動けば、目減りはそこで止まる。
請求する窓口は制度ごとに違う
退職一時金は会社が手続きをする。本人がすることは「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に出すことだけだ。出し忘れると税金が多めに源泉徴収され、取り戻すには自分で確定申告をすることになる。
企業年金連合会の年金は、支給開始年齢に到達する月の初旬に「老齢年金裁定請求書」が住所へ届く。必要事項を書いて返送すると、1か月から2か月で年金証書と裁定通知書が届く。書類が届いていない場合は、企業年金コールセンター(0570-02-2666、平日9時〜17時)に問い合わせる。厚生年金基金の加入員証をなくしていても、年金手帳や基礎年金番号通知書、年金証書があれば手続きできる。
企業型DCは退職から6か月が期限だ。移換先は再就職先の企業型DC、iDeCo、確定給付企業年金、企業年金連合会の通算企業年金から選ぶ。
会社に聞けない、会社がもうない場合

やっかいなのが、辞めた会社に問い合わせづらい、あるいは倒産してすでにないケースだ。ここで諦める人がいるが、聞く先は残っている。
まず押さえておきたいのは、企業年金の原資は会社の財産とは分けて管理されている点だ。会社が潰れても、積み立てられた年金資産がそれで消えるわけではない。
厚生年金基金に入っていた人は、基金が解散した時期で行き先が変わる。平成26年4月1日以降に解散した基金なら、代行部分は国から老齢厚生年金として支給される。窓口は日本年金機構だ。平成26年3月31日以前に解散した基金の代行部分は、企業年金連合会から支給される。残余財産の分配金を連合会へ移していれば、通算企業年金として受け取れる。
確定給付企業年金が終了した場合も、原資が連合会へ移されていれば連合会が支払う。どちらに該当するか自分で判断がつかなくてもかまわない。企業年金コールセンターに氏名と生年月日、基礎年金番号を伝えれば記録を照会してもらえる。加入員証をなくしていても、年金手帳や基礎年金番号通知書があれば手続きできる。
企業型DCだった場合は、自動移換された人の記録を特定運営管理機関(日本インベスター・ソリューション・アンド・テクノロジー、JIS&T)が管理している。会社が消えていても記録は残っているので、ここへ問い合わせる。
もうひとつ、退職金そのものが未払いのまま会社が倒産した場合は別の制度がある。労働者健康安全機構の未払賃金立替払制度で、就業規則などに基づく退職手当も対象になる。立替払の額は未払額の8割で、退職時45歳以上なら上限296万円、45歳未満なら上限176万円だ。請求期限は破産手続の開始決定などの翌日から2年と短い。心当たりがあれば、まず労働基準監督署に相談したい。
まず、就業規則と年金手帳を探す
自分がどの制度に入っていたかは、退職時に会社から渡される書類でわかる。手元にあるなら就業規則の退職金規程と、企業年金の加入員証を確認したい。
見当たらなくても手はある。基礎年金番号がわかれば連合会が記録を調べてくれる。過去に短期間で辞めた会社があるなら、そこに企業年金がなかったかを思い出してみることだ。
103万2000人という数字は、制度が複雑だから生まれたものだ。退職給付金という箱の中身が何で、どこに請求するのか。定年を待たず、一度書類を探してみてはどうだろう。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品を推奨するものではありません。退職給付の支給要件や金額は勤務先の規約・加入状況により異なります。詳細は勤務先、企業年金連合会または日本年金機構にご確認ください。
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