大学卒業後、メーカーを経て広告代理店にてPR・広報のコンサルとしてと企業支援に従事。ところが新型コロナと50歳の節目が重なり、「このまま真面目に働いていていいのか?」と自問自答。一念発起し脱サラして、FIREを目指してスイングトレーダーに転身。現実はまだ“たき火レベル”だが、日々発表される決算書とチャートの動向と格闘している。最近ではAIを駆使し、銘柄研究を行っている。
この記事でわかること
・2027年4月から何が変わるのか 家賃が「負債」に変わる仕組みと、例外になる2つのリース
・店舗を借りる会社と持つ会社で、決算書の見え方がどう分かれるか(ファーストリテイリングの実額で検証)
・自己資本比率は下がるのに営業利益は増える 指標の方向が逆に出る理由
・格付会社が「格付への影響はない」と言い切る根拠と、税金が変わらない理由
・それでも株価が動きうる会社 財務制限条項という落とし穴
・2027年を待たずに、いまの決算書から自分で計算し直す方法
家賃が「負債」になる
企業会計基準委員会が2024年9月13日に公表した企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」が、2027年4月1日以後に開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用される。2025年4月1日以後に開始する年度からの早期適用も認められている。
借手についてファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分が廃止され、これまで家賃を費用に落としていただけの取引が、原則すべて「使用権資産」と「リース負債」になって貸借対照表に載る。
対象は複合機や社用車にとどまらない。基準がリースと識別するのは特定された資産の使用を支配する権利が移転している契約であり、契約の名前は問わないため、店舗の賃貸借契約も倉庫も船も航空機も入る。格付投資情報センター(R&I)は影響の大きい業種として、小売・百貨店や外食、陸運・倉庫、海運、空運、住宅・不動産を挙げている。
例外は、リース期間が12か月以内で購入オプションを含まない短期リースと、1件当たりのリース料総額が300万円以下などの少額リースの2つ。だが店舗の賃借はどちらにも当てはまらない。
借りる会社と、持つ会社
同じ売上高、同じ利益の2社があるとする。一方は店舗を自社で保有し、一方はすべて賃借している。これまでは持つ会社の貸借対照表に建物と土地が並ぶ一方、借りる会社は家賃を販管費に計上するだけで、総資産は小さく自己資本比率は高く見えていた。
2027年4月以降、この差が消える。借りる会社にも使用権資産と同額のリース負債が載り、自己資本は増えないため、自己資本比率は下がって総資産が分母のROAも下がる。
どれくらい効くのか。すでにIFRS第16号を適用しているファーストリテイリングの2025年8月期が参考になる。使用権資産は4771億1100万円で資産合計3兆8593億5300万円の12.4%。リース負債は流動1268億3000万円と非流動3866億7000万円の合計5135億円で、負債合計1兆5318億5200万円の33.5%を占める。負債の3分の1が、店舗を借りているという事実から生まれた数字だ。
同社の親会社所有者帰属持分比率は58.9%だが、仮に使用権資産を資産から除いて計算すると67.2%になる。オンバランスしているかどうかだけで8.3ポイントの差が出るわけで、日本基準のまま店舗を借りている会社は2027年にこの段差を一度に飛び越えることになる。
| 項目 | 金額 | 構成比 |
|---|---|---|
| 使用権資産 | 4771億1100万円 | 資産合計の12.4% |
| リース負債(流動) | 1268億3000万円 | ― |
| リース負債(非流動) | 3866億7000万円 | ― |
| リース負債 合計 | 5135億円 | 負債合計の33.5% |
| 資産合計 | 3兆8593億5300万円 | ― |
| 負債合計 | 1兆5318億5200万円 | ― |
| 親会社所有者帰属持分比率 | 58.9% | ― |
| (参考)使用権資産を除いた場合 | 67.2% | 差8.3ポイント |
損益計算書では、逆に「得」をする
見落とされやすいのは、貸借対照表が悪くなる一方で損益計算書は良くなることだ。
家賃として販管費に入っていたものが使用権資産の減価償却費と支払利息に分かれ、このうち支払利息は営業外費用に回るため、その分だけ営業利益は大きくなる。R&Iは売上高営業利益率やEBITDAマージンは上昇し、EBITDAも増加するとしている。リース料の支払いが財務キャッシュフローに移るため、営業キャッシュフローも増える。
同じ会社が同じ事業をやったまま、営業利益もEBITDAも営業キャッシュフローも増えて見える。健全性の指標は悪化し、収益性の指標は改善する。方向が逆に出るところが、この制度変更のややこしいところだ。
KPMGが示した小売業のモデルケースでは、有利子負債が600億円増える前提で自己資本比率は33.3%から25.0%へ、ROICは5.0%から3.3%へ悪化する一方、EBITDAは300億円から350億円へ、営業キャッシュフローは250億円から280億円へ増えるとしている。
| 指標 | 方向 | 理由 |
|---|---|---|
| 自己資本比率 | 悪化 | 総資産が増え、自己資本は増えない |
| ネットD/Eレシオ | 悪化 | リース負債が有利子負債に加わる |
| ROA | 低下 | 分母の総資産が増える |
| 売上高営業利益率 | 上昇 | 支払利息が営業外費用に回る |
| EBITDAマージン | 上昇 | 家賃が減価償却費に置き換わる |
| 営業キャッシュフロー | 増加 | リース料の支払いが財務CFへ移る |
| 財務キャッシュフロー | 減少 | 同上 |
| 課税所得 | 変わらない | 税務は引き続き賃貸借として損金算入 |
投資家目線ではどう見るか
では投資家はどう受け止めればいいのか。結論から言えば、数字が動いたこと自体に驚く必要はない。
R&Iは2025年3月31日に「新リース会計基準に関するQ&A」を公表し、表題に「適用で負債が増えても、基本的に格付への影響はない」と掲げた。同社はオフバランス処理されていても営業に必要不可欠で重要と判断した資産は有利子負債で調達・購入したものとして財務諸表を調整しており、多額のリース負債が計上されそうな発行体はすでにオンバランスした姿を見据えて評価しているという。
「財務諸表の変化は会計基準変更に伴うものであって経済的な実態に変化はないことから、基本的には格付評価上中立と考えている」。同社のチーフアナリスト、後藤潤氏と渡辺博紀氏は同リリースでそう書いており、未経過リース料の注記やヒアリングで取引を把握してきたとも述べている。プロは注記を読んで、とっくに足し戻していたということだ。
税金も変わらない。2025年度の税制改正で、オペレーティング・リース取引については引き続き賃貸借取引として債務の確定した支払賃借料を損金に算入することとされた。会計が変わっても課税所得は動かない。
それでも、動く会社はある
とはいえ全社が中立というわけではなく、R&Iも2つの例外を挙げている。
1つは、認識されていなかった重要なリース取引が表に出てきた場合で、リースだと思われていなかった契約が新しい識別基準でリースになれば、金額次第で格付に影響しうる。
もう1つが実務では重い。財務制限条項への抵触である。借入契約に自己資本比率や純資産額の維持を約束する条項が入っていると、会計基準が変わっただけで数字が基準を割り込むことがありうる。R&Iも、財務制限条項へ抵触して金融機関の融資姿勢に変化が生ずるなど実際に資金調達に変化があれば、格付にも影響する可能性はあるとしている。実態は何も変わっていないのに、契約書の文言が資金繰りを締めるという筋だ。
投資家として見るべきはここだろう。2027年に自己資本比率が下がったという事実そのものではなく、その会社が借入契約の条項を貸し手と手当てできているか。多くの会社は適用前に銀行と条項を巻き直すはずだが、それができる会社とできない会社がある。
注記を読む習慣が、差になる
制度が始まるまで1年半あるが、投資家にできる準備はもう始められる。
これからリース負債として載る金額は、いまの決算書にも「未経過リース料」として注記されているため、格付会社がやってきたのと同じことを個人でもできる。保有銘柄の有価証券報告書で「リース取引関係」の注記を探し、オペレーティング・リースの未経過リース料を総資産に足して自己資本比率を計算し直す。それが2027年に見えるようになる姿の近似値だ。
そこで大きく動く会社があれば、2027年の決算発表で驚くのは自分ではなく他の投資家のほうだろう。
会計基準は事実を作らない。すでにあった事実の見え方を変えるだけだ。家賃を払い続けるという約束は、制度が変わる前からその会社の負債だった。2027年4月に起きるのは、それがようやく1つの表に並ぶというだけのこと。制度が追いついてくる前に、自分の目で足し戻しておきたいところだ。
※本稿は、投資における情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。株式の売買は自己の責任において、ご自身の判断で行うようお願いします。







