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精算課税を選んだ8万人、税を払ったのは6000人だけ 贈与2年目の実像

贈与税の改正から2年分の申告実績が出そろった。相続時精算課税を選んだ人は59.2%増えている。ところが、そのうち贈与税を納めたのはわずか6000人。数字は「制度が得になった」とは別のことを語っていた。

Gold beans.編集部2026/09/23

精算課税を選んだ8万人、税を払ったのは6000人だけ 贈与2年目の実像
  • 精算課税の申告は8万人に増えたが、納税は6000人
  • 暦年課税申告は減少、1人当たり納税額は80万円から100万円へ
  • 精算課税は選択すると暦年贈与に戻れない。額と年数の分かれ目

この記事でわかること

・申告は59.2%増、それでも納税者が増えなかった理由
・暦年課税から抜けたのは、どの層だったのか
・一度選ぶと戻れない制度を、110万円のために選ぶか
・7年加算が本当に効いてくるのは5年先
・受け取る側が親に確かめておく3つのこと

精算課税を選んだ8万人、納税したのは6000人

2024年1月に贈与税の制度が変わったとき、税理士も金融機関も口をそろえて「相続時精算課税が使いやすくなった」と言った。年110万円の基礎控除が新たに付き、その範囲なら贈与税も申告も要らなくなったためだ。一方の暦年贈与は、相続前の持ち戻しが3年から7年に延びて不利になった。制度の優劣は決着したかに見えた。

その改正から2年分の申告実績が、国税庁の集計として出そろっている。2024年分(令和6年分)の贈与税の申告人員は47万人で、前年より7.0%減った。内訳を見ると、相続時精算課税を適用した申告人員は8万人で、前年の4万9000人から59.2%増えている。制度が選ばれるようになったのは間違いない。

ところが、その8万人のうち贈与税を納めた人は6000人にとどまる。前年は5000人だったので、増えたのは1000人だけだ。申告人員が2万9000人増えたのに、納税した人はほとんど増えていない。

つまり、新たに精算課税を選んだ人のほぼ全員が、税額の出ない贈与しかしていない。110万円の基礎控除に収まる小口の贈与を、精算課税という枠組みで出しているということになる。

暦年課税は「人数が減って、1人当たりの税額が増えた」

同じ年の暦年課税は、逆の動きをしている。申告人員は39万7000人で14.0%減ったが、申告納税額は3274億円と9.7%増えた。1人当たりの納税額は前年の80万円から100万円へ上がっている。

人数が減って税額が増えたということは、少額の贈与をしていた層が暦年課税から抜け、まとまった額を動かす層が残ったという読み方ができる。年110万円前後のやりとりをしていた人たちが精算課税へ移り、数百万円から1000万円規模を贈与する人たちは暦年課税にとどまった、という姿だ。

精算課税の側の数字も、それを裏づけている。精算課税で納税した6000人の1人当たり申告納税額は1146万円で、暦年課税の100万円とは桁が違う。精算課税を選んだ8万人は、税額の出ない大多数と、2500万円の特別控除を使い切って多額を動かす少数とに割れている。

戻れない制度を、110万円のために選ぶのか

ここで引っかかるのが、増えた2万8000人のほうである。年110万円以下の贈与をするだけなら、暦年課税でも贈与税はかからず、申告も要らない。わざわざ精算課税を選ぶ理由は、相続前7年の持ち戻しを避けられるという一点にある。

精算課税の基礎控除110万円以下の部分は、相続が起きても相続財産に加算されない。暦年課税なら、亡くなる前7年以内の贈与は原則として相続財産に戻される。毎年110万円を確実に外へ出したいなら、たしかに精算課税に分がある。

ただ、この制度には引き返せないという性質がある。相続時精算課税選択届出書を出すと、その贈与者からの贈与は以後すべて精算課税になり、暦年課税へ戻すことはできない。届出書の提出期限は贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までで、対象は贈与をした年の1月1日に60歳以上の父母や祖父母から、その年の1月1日に18歳以上の子や孫への贈与に限られる。

さらに、110万円を超えた部分は贈与時の価額のまま相続財産に加算される。値上がりする資産を早めに渡すときは有利に働くが、逆に値下がりすれば高いままの評価額で相続税の計算に入る。撤回できない制度なので、20年先の資産価値まで読んだうえで選ぶことになる。

年110万円の非課税枠を得る代わりに、その親からの贈与の設計を一生涯固定する。2万8000人がその取引をしたことになるが、10年後に親の資産構成が変わったとき、同じ判断をするかどうかは分からない。

7年加算がフルに効くのは2031年から

暦年贈与が不利になったとされる7年加算にも、まだ全体像は現れていない。7年へ延長されたのは2024年1月1日以後の贈与についてで、加算の対象は段階的に広がる。

2026年12月31日までに相続が起きた場合、加算されるのは従来どおり3年以内の贈与だけだ。2027年1月1日から2030年12月31日までは、2024年1月1日から死亡の日までの期間が対象になる。丸7年がそのまま加算されるのは、2031年1月1日以後に相続が始まったときである。

延長された4年分についても緩和がある。相続開始日が2027年1月2日以後の場合、加算対象のうち相続開始前3年以内を除く部分は、贈与時の価額の合計から総額100万円までが加算されない。

つまり、2026年に相続が起きるなら、暦年贈与の持ち戻しはこれまでと変わらない。改正のきつい部分が効いてくるのは5年先で、いま慌てて制度を切り替える理由にはならない。

親に確認しておく3つのこと

受け取る側からすると、この2年で確かめておくべき点が3つある。

1つは、親がすでに精算課税の届出書を出していないかどうか。出ていれば、その親からの贈与は暦年課税に戻せない。兄弟のうち1人だけが届出をしている場合もあるので、誰が誰に対して選択したのかまで確認しておきたいところだ。

2つめは、親の資産が相続税の基礎控除に収まるかどうか。基礎控除は3000万円に法定相続人1人あたり600万円を足した額で、相続人が子2人なら4200万円になる。ここに収まるなら相続税はかからず、7年加算を避けるための贈与設計そのものが要らない。

3つめは教育資金の一括贈与である。祖父母から1500万円までを非課税で渡せるこの制度は、2026年度の税制改正で適用期限を延長せず終了することが決まった。2026年3月31日までに拠出されたものには引き続き適用されるが、それ以後は使えない。孫の学費をまとめて出す話が親から出ているなら、期限が過ぎている点を伝える必要がある。

2年分の申告実績が示したのは、制度の優劣ではなく、額による住み分けだった。年110万円前後なら精算課税、まとまった額を動かすなら暦年課税という形に落ち着きつつある。分かれ目は「どちらが得か」ではなく、「その親から何年かけていくら渡すのか」という一点にある。その答えを持たないまま、戻れないほうの扉を開けることはないといえるだろう。

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