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この記事でわかること
1. 特定空家の手前にできた「管理不全空家等」という区分
2. 6倍になるのは200㎡以下の部分の固定資産税だけ
3. 「3年」を数えているのは空家法ではなく税務署
4. 900万戸のうち本当の問題は385万戸
5. 勧告が来る前に打てる手は3つしかない
「特定空家」の手前に、もう一段できた
空き家はいまおよそ900万戸ある。総務省の住宅・土地統計調査によれば2023年10月1日時点で過去最多となり、空き家率も13.8%と最も高い。1993年の448万戸から30年で倍増した計算だ。そんな中で政府も本格的な取り組みに動き出している。その1つが空き家を放置すると固定資産税が6倍になるというものだ。
具体的には、2023年12月13日に施行された改正空家等対策の推進に関する特別措置法である。この改正で新設されたのが「管理不全空家等」という区分だ。
従来は、倒壊の恐れがあるなど著しく危険な状態になって初めて「特定空家等」に指定され、そこで勧告を受けると土地の住宅用地特例が外れる仕組みだった。改正でその手前に一段が置かれ、「管理不全空家等」に区分されると、「特定空家等」でなくても市区町村は指導・勧告ができるようになったのである。
空き家をめぐる制度は、この時期に相次いで動いている。2023年4月には相続土地国庫帰属法が施行されて要らない土地を国に引き取ってもらう道ができ、2024年4月には改正不動産登記法で相続登記が義務化された。所管も根拠法も別だが、放置された不動産を減らすという狙いは同じだ。空家法の改正は、その流れの一つに位置している。
国土交通省の集計では、2025年3月31日時点の累計で管理不全空家等への指導が3211件、勧告が378件に達している。制度が動きだして1年余りでこの数字だ。特定空家等のほうは助言・指導が4万2768件、勧告が4153件と桁が違うが、こちらは2015年の法施行からの積み上げである。

6倍の中身を分解する
住宅用地特例とは、住宅が建っている土地の固定資産税と都市計画税を軽くする仕組みをいう。国土交通省の資料で内訳を確認すると、こうなっている。
| 区分 | 固定資産税 | 都市計画税 |
|---|---|---|
| 小規模住宅用地(200㎡以下の部分) | 課税標準が価格の1/6 | 1/3 |
| 一般住宅用地(200㎡を超える部分) | 課税標準が価格の1/3 | 2/3 |
勧告を受けるとこの特例が外れ、課税標準が価格そのものに戻る。200㎡以下の部分は1/6が1になるので、税額は単純計算で6倍だ。都市計画税は1/3が1に戻るので3倍になる。
「6倍」という言葉だけが独り歩きしているが、6倍になるのは200㎡以下の部分の固定資産税であって、土地全体が一律6倍になるわけではない。とはいえ一般的な戸建ての敷地は200㎡以下に収まることが多く、多くの家では実際に6倍が当たる。
土地の固定資産税評価額が1200万円の宅地なら、特例が効いている間の課税標準は200万円で、税率1.4%として年2万8000円。特例が外れると課税標準が1200万円になり、年16万8000円になる。差は14万円だ。都市計画税を加えればもう少し開く。
3年を数えているのは、税務署のほうだ
見出しに掲げた「3年」は、実は空家法の話ではない。税制の期限である。ここを混同すると判断を誤る。
相続した空き家を売るとき、譲渡所得から最高3000万円を控除できる特例がある。国税庁の要件を並べるとこうだ。
・相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
・家屋が昭和56年5月31日以前に建築されたものであること
・区分所有建物登記がされている建物でないこと(マンションは対象外)
・売却代金が1億円以下であること
・適用期限は2027年12月31日まで
3年は、この特例が使える期間を指している。2026年8月に相続した家なら、2029年12月31日が期限になる。放置して過ぎれば、3000万円の控除がまるごと消える。

金額に置き換えてみる。親が昭和50年代に建てた実家を相続し、3500万円で売ったとしよう。取得費は購入時の契約書が残っていないことが多く、その場合は売却価格の5%を取得費とみなす概算取得費が使える。3500万円の5%で175万円だ。解体費と仲介手数料などの譲渡費用を325万円とすると、譲渡益はこうなる。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売却価格 | 3500万円 |
| 概算取得費(売却価格の5%) | ▲175万円 |
| 譲渡費用(解体費・仲介手数料など) | ▲325万円 |
| 譲渡益 | 3000万円 |
この3000万円に長期譲渡所得の税率20.315%がかかると、税額は609万4500円になる。特例を使えば3000万円が控除されて課税対象がゼロになるので、この609万円がまるごと消える。
税率の内訳は所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%である。所有期間が5年を超えれば長期譲渡所得になり、相続した家は被相続人の取得時期を引き継ぐので、親が長く住んでいた家ならまず長期に該当する。
もちろん譲渡益がいくらになるかは売却価格と費用しだいで、3000万円に届かないことも多い。それでも期限を過ぎて失うものは、固定資産税の年14万円とは桁が違う。売る意思があるなら、こちらを先に見ておきたい。
なお令和6年1月1日以後の譲渡では、相続人が3人以上の場合の控除額が1人あたり2000万円に縮小された。使うつもりなら人数も確認しておきたい。
一方で使いやすくなった点もある。改正前は売る前に耐震改修か取壊しを済ませておく必要があったが、譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに買主側で行っても適用対象になった。売り急ぐ理由が一つ減った形だ。
空き家900万戸のうち、本当の問題は385万戸
冒頭に挙げた900万戸という数字だけが報じられがちだが、中身を分けて見る必要がある。900万戸には賃貸募集中の部屋や売り出し中の住宅、別荘が含まれる。それらを除いた、いわゆる「その他空き家」は385万戸で、総住宅数の5.9%にあたる。
管理する人がいないまま放置される可能性が高いのはこの385万戸のほうで、相続した実家の多くはここに入る。管理不全空家等の勧告が狙うのも、この層である。

勧告が来る前に打てる手は3つしかない
制度の設計上、所有者に残された選択は多くない。
売るのが最も明快だ。3000万円控除が使えるなら期限内に動く価値が大きい。建物に価値がなくても、更地にすれば売れる立地は少なくないが、取り壊すと住宅用地特例はその時点で外れるので、売却の見通しを立ててから壊すのが順番になる。
貸すという手もある。人が住めば空き家ではなくなり、特例も維持される。ただ昭和56年以前の家は耐震改修に費用がかかり、家賃で回収できるかは立地次第だ。
管理するのが3つ目。管理不全空家等の認定は「適切な管理が行われていない」ことが要件なので、定期的に風を通し、庭木を刈り、屋根や外壁を直しておけば認定の対象から外れる。遠方で自分では通えないなら管理代行サービスという手もあり、固定資産税が6倍になることを思えば費用は見合う。
順番としては、3000万円控除の期限から逆算するのが合理的だろう。3年という期限があるのは売却だけで、管理と賃貸には期限がない。売る可能性が少しでもあるなら、まず期限内に売却を検討し、売らないと決めてから管理か賃貸に切り替える。逆順にすると、選択肢が一つ消えたあとで考えることになる。
実家をどうするかは、税額だけで決められる話ではない。それでも、決めないまま3年が過ぎたときに何を失うのかは、数字で分かっている。相続が起きた日を起点に、いつまでに何を決めるのか。カレンダーに書き込むところから始めてはどうだろうか。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の取引を推奨するものではありません。税額は土地の評価額や自治体の税率、個々の事情により異なります。実際の判断にあたっては税務署または税理士にご確認ください。
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