この記事でわかること
・9月募集分は変動10年が年1.95% 利率がどう決まり、なぜ先月より上がったのか
・100万円を1年預けたら手元にいくら残るか メガバンク・ネット銀行との差額を実額で比較
・変動10年と固定5年はどちらが得か 利率の高い固定を選ばないほうがよい場合
・1年で解約すると利息がまるごと消える 中途換金調整額という仕組み
・預金保険の1000万円の上限がない すぐ使う資金と当面動かさない資金の切り分け
・NISAもiDeCoも対象外 年3961円の税負担と、2027年度に向けた税制改正の動き
長いあいだ、個人向け国債は語る価値のない商品だった。下限金利0.05%に張りついたまま10年が過ぎ、預けても利息はほぼゼロ。買う理由が見当たらなかった。
その国債の利率が、2026年9月募集分で年1.95%になっている。銀行の定期預金を上回る水準で、しかも国が元本を保証する。日銀が9月18日に政策金利を1.25%程度へ引き上げたこともあり、この商品の位置づけは完全に変わった。何が起きたのかを整理しておきたい。
9月募集分の条件を確認する
財務省が2026年9月2日に発表した個人向け国債の発行条件は、次のとおりである。
| 種類 | 回号 | 初回の適用利率 | 税引後 | 利率の算式 | 償還期限 |
|---|---|---|---|---|---|
| 変動10年 | 第198回債 | 年率1.95% | 1.5538575% | 基準金利×0.66 | 令和18年10月15日 |
| 固定5年 | 第186回債 | 年率2.24% | 1.7849440% | 基準金利−0.05% | 令和13年10月15日 |
| 固定3年 | 第196回債 | 年率1.96% | 1.5618260% | 基準金利−0.03% | 令和11年10月15日 |
募集期間は2026年9月3日から9月30日まで、発行日は10月15日。利払いは毎年4月15日と10月15日の年2回である。取扱機関は証券会社・銀行など873機関にのぼる。
利率の決まり方も公表されている。変動10年は基準金利×0.66で算出され、9月分の基準金利は前営業日の10年固定利付国債の入札結果から算出された2.96%だった。2.96×0.66は1.9536で、小数第2位までとって1.95になる。
固定5年は基準金利マイナス0.05%、固定3年は同マイナス0.03%で決まる。基準金利は前営業日の市場実勢利回りを基に計算した想定利回りで、固定5年が2.29%、固定3年が1.99%だった。いずれも下限は0.05%である。
なお前月の8月募集分は変動10年が1.87%だったので、1か月で0.08ポイント上がっている。利率は毎月見直されるので、募集のたびに条件が変わる商品だという点は押さえておきたい。
注意したいのは、9月分の基準金利が9月2日時点の数字であって、日銀が18日に利上げを決める前の水準だという点だ。引き上げが長期金利に波及すれば10月分以降の条件はさらに上がる余地があるが、変動10年なら半年ごとに見直されるので、その差が効くのは初回の半年分だけになる。
定期預金と並べてみる
前提を揃えて比較する。100万円を1年預けた場合の税引後の利息だ。
| 商品 | 税引前利率 | 税引後利率 | 100万円1年の利息 |
|---|---|---|---|
| 個人向け国債 固定5年 | 2.24% | 1.7849440% | 1万7849円 |
| 個人向け国債 固定3年 | 1.96% | 1.5618260% | 1万5618円 |
| 個人向け国債 変動10年 | 1.95% | 1.5538575% | 1万5539円 |
| あおぞら銀行BANK 定期1年 | 1.40% | 1.1155900% | 1万1156円 |
| 三菱UFJ銀行 スーパー定期1年 | 0.65% | 0.5179525% | 5180円 |
| 個人向け国債 下限0.05%の場合 | 0.05% | 0.0398425% | 398円 |
変動10年と三菱UFJ銀行の定期預金1年では、1年で1万359円の差がつく。ネット銀行の高金利定期と比べても4383円の開きがある。
下限の0.05%だった場合と比べれば、利息は39倍になる計算だ。これが「使える商品に戻った」という意味である。
変動と固定、どちらを選ぶか
表を見ると固定5年の2.24%が最も高い。素直に読めば固定5年が有利に見えるが、そう単純でもない。
変動10年の適用利率は半年ごとに見直される。いまは固定5年より低いが、今後さらに金利が上がれば変動10年の利率も上がっていく。日銀の政策金利は2026年9月18日に1.25%程度へ引き上げられた。決定は賛成7・反対2で、反対した浅田統一郎委員と佐藤綾野委員はこのタイミングでの利上げは適切でないという立場だ。日銀は公表文で、引き続き政策金利を引き上げて金融緩和の度合いを調整していくことになると述べており、次の一手が利上げなら変動が追い上げる。
逆に金利がここで頭打ちになるなら、2.24%を5年間固定できる固定5年が勝つ。
判断の分かれ目は、いまが金利上昇局面の途中なのか、終わりなのかという読みにある。これを当てるのは難しい。当てにいかないなら変動10年を選ぶ、というのが穏当な考え方だろう。変動は上がっても下がっても市場に追随するので、読みを外したときの後悔が小さい。
金利が下がる局面でも、変動10年には下限0.05%がある。市場金利がマイナスになっても、それ以下にはならない。下方向が制度で塞がれているのは、この商品の見過ごされがちな特徴だ。
中途換金の条件を正確に押さえる
国債は満期まで持つのが原則だが、途中で換金できる。条件は明快だ。
第2期利子支払日(発行から1年経過)以後であれば、いつでも中途換金できる。直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685が中途換金調整額として差し引かれる。
100万円の変動10年を利率1.95%のまま1年で換金した場合、半年分の利子は9750円なので、調整額は9750×2×0.79685で1万5539円になる。ちょうど1年分の税引後利息が消える計算だ。元本は割れないが、1年で解約すれば利息は残らない。
つまりこの商品は、1年以内に使う予定の資金には向かない。発行から1年間は換金そのものができないので、なおさらである。保有者が亡くなった場合と大規模な自然災害の被害を受けた場合の特例はあるが、例外の扱いだ。
預金との使い分け
国債と定期預金は似て非なるものだ。3点で異なる。
保護の仕組み。銀行預金は預金保険で1金融機関あたり元本1000万円とその利息までが保護される。国債は国が元本と利子の支払いを保証するので、金額の上限がない。1000万円を超える資金を安全に置くなら、この差は大きい。
流動性。定期預金は中途解約しても元本は戻り、利率が下がるだけで済む。国債は1年間そもそも換金できない。すぐ使う資金は預金、当面動かさない資金は国債という切り分けになる。
手続き。国債は募集期間が月に一度で、買いたいときにいつでも買えるわけではない。9月分なら9月30日までで、逃せば翌月の条件を待つことになる。利率と条件は国が決めるので、873機関のどこで買っても中身は同じだ。
NISAもiDeCoも使えない
ここで読者が思うのは、NISAで買えば非課税になるのではないかという点だろう。結論は買えない。
金融庁の資料では、NISAの投資対象商品はつみたて投資枠が「長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託」、成長投資枠が「上場株式・投資信託等」とされている。個人向け国債は上場株式でも投資信託でもないので、どちらの枠にも入らない。
iDeCoも同じだ。運用商品として選べるのは定期預金・保険商品・投資信託の3種類で、個人向け国債そのものは並んでいない。
この差は小さくない。変動10年の1.95%には20.315%の税がかかるので、100万円を1年持って手元に残るのは1万5539円。非課税なら1万9500円で、1年で3961円、利率が変わらないまま10年持てば3万9614円が税で消える。安全資産として国債を選ぶなら、この税負担が前提になる。

もっとも、ここは動く可能性がある。金融庁が2026年8月31日に公表した令和9年度税制改正要望には、「国債に関する税制の検討」が財務省との共同要望として載った。片山さつき財務大臣兼内閣府特命担当大臣も7月14日の閣議後会見で、国債の魅力化と商品性見直しを「早急に具体化したい」と述べ、NISAについても整理が必要なことを含めて考えていきたいとしている。要望は具体的な制度設計を示さない「事項要望」の段階であり、対象化が決まったわけではない。いま買うかどうかの判断は、現行の課税を前提に考えるのが筋だ。
長く「買う理由のない商品」だった個人向け国債が、預金金利を上回る位置に戻ってきた。利率は毎月見直されるので、来月の条件は今月と違う。金利のある世界では、置き場所の選択肢が一つ増えたことになる。生活費の予備を削ってまで買うものではないが、当面動かさない資金が普通預金に眠っているなら、比べてみる価値はあるだろう。
※本記事は2026年9月21日時点の公表資料にもとづく情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品を推奨するものではありません。個人向け国債の適用利率は募集月ごとに見直されるため、記載の利率は9月募集分(発行日2026年10月15日)のものです。預金金利も各金融機関の改定により変動します。購入にあたっては財務省および取扱金融機関の最新の条件をご確認ください。






