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賃貸住宅 親の死亡後に契約を承継できるケース、できないケース

親が借りていた部屋で、その親が亡くなった。家主に名義変更を申し出たら断られ、退去を求められた――。この場合、出ていく必要はあるのか。賃借権は相続の対象ではあるものの、民間と公営では違いもある。

大谷昭二2026/09/01

賃貸住宅 親の死亡後に契約を承継できるケース、できないケース
  • 賃借権は財産権であり、相続の対象になる(民法896条)
  • 承継に家主の承諾は不要。同居・別居も問わない
  • 公営住宅は例外で、賃借権の相続が認められない

この記事でわかること
1. 家主に名義変更を断られても、出ていく必要はない
2. 相続なら家主の承諾は要らず、別居でも引き継げる
3. 名義変更より先に、家主への通知と賃料の支払い
4. 公営住宅だけは、賃借権の相続が認められない

「名義変更は認めない」と言われたら

民間の賃貸住宅に、父親と二人で暮らしていた。その父親が亡くなり、契約の名義を自分に変えたいと家主に申し出たところ、断られた。それどころか、退去してほしいと言われてしまった――。
賃貸住宅をめぐるトラブルのなかで、この種の相談は少なくない。

肉親を亡くした直後に、住まいまで失うかもしれない。そう告げられれば動揺もする。だが、結論から言えば、この場合に出ていく必要はない。家主が誤解している、あるいは誤解を承知で退去を求めているケースもある。

出ていかなくてもよい理由は単純で、部屋を借りる権利――賃借権が、相続の対象になるからだ。

民法896条は、相続人が相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めている。このことから預貯金や不動産同様、親が家主との間で結んでいた賃貸借契約上の地位も、そのまま子に引き継がれる。

その相続人の範囲は民法725条によって、六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族が親族とされている。子はもとより第一順位の相続人であり、親の財産を相続する権利を持つ。親が借主となって部屋を借りていた以上、その住む権利もまた、子が受け継ぐことになる。

家主の承諾は、そもそも要らない

とはいえ、誤解されやすい部分もある。賃借権の承継に家主の承諾は必要ないが、賃借権を第三者に譲り渡したり、又貸ししたりする場合には、家主の承諾が要る。無断で行えば契約を解除されうる。
だが相続は、譲渡でも転貸でもない。借主が亡くなったその瞬間に、法律上当然に相続人へ移るものである。家主が首を縦に振るかどうかは、はじめから関係がない。

したがって、家主が相続人の居住を拒むことはできない。「名義変更は認めない」という言葉には、法的な効力がないのである。借主が死亡したことを理由に契約を終了させることもできない。

もう一点、押さえておきたいことがある。相続人が親と同居していたか、別居していたかは問われない、という点だ。

たとえば、遠方に住んでいた子が、条件のよい物件だからそのまま引き継ぎたいと考えたとする。家主からすれば、住んでいなかった人間に貸し続ける必要はない、と言いたくもなるだろう。また、そう主張する家主もいる。
だが賃借権はあくまで財産権であり、相続に同居の要件はない。別居していた相続人も、相続分に応じて賃借権を承継する。そこに家主の意向は必要ない。

名義変更より先に、やっておくこと

では名義変更は不要かというと、話はそこで終わらない。

法律上は、名義を変えなくても住み続けることができる。契約上の地位はすでに移っており、書類の記載が誰であろうと権利として認められる。とはいえ実務では、契約更新の時点で名義を相続人に改めておくほうがよい。以後の連絡や修繕の依頼、更新手続きといった場面で、契約書の名義と実際の借主が食い違っていると、いちいち説明を要するからである。

それよりも先に手を打つべきなのは、家主への通知だ。借主が亡くなったこと、誰が承継するのかを速やかに伝え、死亡の事実がわかる書類を示しておく。あわせて、賃料の支払いを止めないこと。ここが滞ると、相続とは別の理由、つまり賃料の不払いで契約を解除される口実を与えてしまう。
権利があることと、その権利を守ることは別の話であり、実務でつまずくのはたいていこちらである。

公営住宅は、話が別になる

都内にある都営住宅の外観。公営住宅は賃借権の相続が認められない
都内にある都営住宅(イメージ)

ここまでは民間の賃貸住宅の話である。同じ賃貸住宅でも、公営住宅となると事情が変わる。

都営、市営、県営といった公営住宅に親が住んでいて、その親が亡くなった。条件のよい住まいなので引き継ぎたい――そう考えて名義変更を申し出ても、認められない。公営住宅の場合、賃借権の相続は認められないという解釈が取られているからだ。
最高裁も1990年10月18日の判決で、入居者が死亡しても相続人がその使用権を相続することはできないと判断している。

理由は、公営住宅が何のために用意されているかを考えればわかる。公営住宅は、経済的に困難な人たちに住む権利を保障するための住宅であり、家賃も政策的に低く抑えられている。ここに一般の賃借権と同じ相続を認めれば、たとえば高額所得者である相続人が、そのまま安い家賃で住み続けられることになってしまう。本来の入居資格に合致しない人が住み続けることになり、制度の趣旨が崩れてしまう。

だからこそ公営住宅の使用権は、入居者その人に与えられたものとして扱われ、相続の対象から外されているというわけだ。民間の賃貸住宅なら家主の承諾なく引き継げるのに、公営住宅では引き継げない。同じ「賃貸住宅の名義変更」でも、結論が正反対になる。

なお、相続とは別の仕組みとして、入居者が亡くなった時点で同居していた家族については、事業主体の承認を受けたうえで引き続き住み続けられる道が用意されている。これは権利の承継ではなく、あくまで承認を要する手続きであり、収入などの入居資格を満たすことが前提になる。別居していた子が引き継ぐという話とは、性質が異なる。

家主から退去を求められると、法律を知らないまま応じてしまいがち。だが民間の賃貸住宅であれば、賃借権の相続ははっきりしたルールの上にある。慌てて荷物をまとめる前に、自分が借りているのは民間か公営か、そして自分の立場はどうかを確かめることだ。

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この記事を書いた人

大谷昭二

大谷昭二NPO法人日本住宅性能検査協会理事長/一般社団法人空き家流通促進機構会長/元仲裁ADR法学会理事

1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。

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