政治・経済、都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナル集団。主に東京の不動産についてフィールドワークを重ねているが、再開発事業については全国各地の動きをウォッチしている。さらにアジア・欧米の状況についても明るいメンバーも参画している。
この記事でわかること
管理費の平均は月1万1503円、上がっているのは「経費」のほう
値上げの背景にある人件費・採用難・外注費・法改正
断ったあとの3つの結末と「3か月」の壁
値上げの妥当性を見極める3つのチェックポイント
通告が来る前に、理事会でやっておくこと
管理組合の理事会に、管理会社から一通の書面が届く。管理委託費の改定について、という表題で、来期からの値上げを求める内容だ。金額は現行の1割から2割、物件によってはそれ以上になる。
数年前なら、こうした提案は交渉の余地があった。断れば引き下がる会社も多かった。いまは事情が違う。断った結果として、管理会社のほうから契約を終わらせるケースが出ている。何が起きているのかを整理しておきたい。
まず現状の数字を押さえる
国土交通省が公表した令和5年度マンション総合調査の結果から、管理費の水準を確認する。
| 項目 | 月/戸当たりの平均 |
| 管理費(駐車場使用料等からの充当額を含む総額) | 1万7103円 |
| 管理費(駐車場使用料等からの充当額を除く額) | 1万1503円 |
| 修繕積立金(充当額を含む総額) | 1万3378円 |
| 修繕積立金(充当額を除く額) | 1万3054円 |
管理費と修繕積立金は別の財布である。管理費は管理会社への委託費や管理員の人件費、日常の清掃・点検にあてる。修繕積立金は十数年に一度の大規模修繕のために貯める。値上げ要求が来ているのは前者で、これは貯金ではなく毎月出ていく経費だ。
同じ調査では、単棟型の管理費(充当額を除く)は1万1580円で、前回調査の1万0970円から610円上がっている。すでに水準は切り上がっている。
なぜ値上げが起きているのか
理由は複合している。順に見ていく。
人件費である。 管理員の時給は最低賃金の引き上げに直接連動する。管理員業務は最低賃金近辺の求人が多く、最低賃金が上がればそのぶん原価が上がる。管理会社が吸収できる幅を超えれば、委託費に乗せるしかない。
採用ができない。 管理員の高齢化が進み、募集しても人が集まらない。時給を上げなければ採用できず、上げれば原価が上がる。管理会社にとっては、人を確保するための値上げでもある。
外注費が上がっている。 エレベーター保守、清掃、消防設備点検といった業務は協力会社に出している。その協力会社からの値上げ要請が管理会社に届き、管理会社から管理組合に回ってくる。
制度も重くなる。 マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則の一部を改正する省令が2025年10月2日に公布され、2026年4月から施行された。管理業者が管理者を兼ねる方式などで、利益相反のおそれがある発注について区分所有者への事前説明が義務づけられている。管理組合を守るための改正だが、管理会社から見れば手続きと人員のコストが増える。

値上げ要求を断るとどうなるか
管理会社からの値上げを断った場合に起きることは、大きく3つに分かれる。
1つ目は、交渉が成立して据え置きになる場合。 管理会社にとって採算の取れている物件なら、契約を失うほうが損になる。戸数が多く、管理員の勤務形態に無理がなく、滞納が少ない物件はこちらに入りやすい。
2つ目は、仕様を落としてつじつまを合わせる場合。 金額は据え置くかわりに、管理員の勤務時間を週6日から週5日に減らす、清掃の回数を減らす、といった調整をする。合意としては穏当だが、下がったのは金額ではなくサービスの量である。分譲であれば居住者への連絡がなされるが、賃貸の場合は数か月経ってから居住者から「最近ゴミ置き場が汚い」と苦情が出てくる可能性がある。
3つ目は、管理会社が契約更新を辞退する場合。 これがいま増えている。採算の合わない物件、とくに小規模で管理員の確保が難しい物件では、管理会社のほうから手を引く。値上げを断ったのではなく、断った結果として契約が終わる。
| 断ったあとの経過 | 起きること | 起きやすい物件 |
| 据え置きで合意 | 現状維持 | 戸数が多く採算の取れる物件 |
| 仕様の見直し | 金額は維持・業務量が減る | 中規模で調整余地のある物件 |
| 更新辞退 | 3か月ほどで管理会社が不在になる | 小規模・管理員確保が難しい物件 |
辞退の通告は、契約期間の満了の数か月前に届く。標準管理委託契約書では更新の申し出は契約満了の3か月前までとされているのが一般的で、動ける時間はおよそ3か月しかない。その間に新しい管理会社を探し、見積りを取り、理事会で候補を絞り、総会で決議する必要がある。総会の招集通知にも日数がいるため、実際の検討時間はもっと短い。
そして、探しても見つからないことがある。前の管理会社が採算に合わないと判断した物件は、他社から見ても同じく採算に合わないと判断されるだろう。ここで管理会社が決まらないまま管理不全に陥るのが最悪のパターンである。
値上げの妥当性をどう判断するか

値上げをすべて受け入れる必要はない。判断するための材料は、管理組合の側にもある。
内訳を出してもらう。 管理委託費は一つの金額ではなく、事務管理業務費・管理員業務費・清掃業務費・建物設備管理業務費などの合算である。どの項目がいくら上がるのかを出してもらえば、人件費が問題なのか外注費がネックなのかが分かる。総額だけの提示は、判断材料として不足していると考えてよい。
人件費が要因の値上げは、断っても下がりにくい。最低賃金は毎年上がっており、管理会社の努力で吸収できる性質のものではないからだ。一方、外注費や本部経費の上乗せには交渉の余地が残る場合がある。どこを争点にするかを内訳から見て、そこから話し合うのが、実務的な交渉になる。
こうした交渉を進める一方で、他社からの相見積りを取る。 他社に見積りを依頼すれば、提示額が相場から外れているかどうかが分かる。注意したいのは、相見積りは必ずしもリプレイスのためではない点だ。現在の管理会社に残ってもらう前提でも、水準を知る意味がある。
もっとも、相見積りを取ること自体が交渉の材料になると考えるのは危ない。契約中の管理会社が採算の合わない物件だと判断しているということは、他社も同じ見方をする。見積りが集まらないこと自体が、その物件の置かれた状況を示す情報になる。数字が出てこなければ、値上げを受け入れて管理を続けてもらう判断も現実的な選択肢になってくる。
仕様を見直す。 管理員の勤務日数、清掃の頻度、点検の回数は、いまの居住実態に合っているとは限らない。竣工時のまま見直していない物件は多い。必要のない業務を減らして値上げを吸収するのは、サービスの劣化ではなく適正化である。
理事会で決めておくこと
値上げの通告が来ていない管理組合も、やっておくことがある。
管理委託費の内訳を、直近3期ぶん並べてみることだ。どの項目が上がってきているかが見えれば、次に来る提案の中身が予測できる。あわせて、現在の契約の満了日と、更新の申し出期限を確認しておく。なぜなら3か月前に通告が来てから調べはじめるのでは間に合わないからだ。
管理費の3か月以上の滞納がある住戸を抱えるマンションは30.1%にのぼる。滞納は管理会社から見た物件の採算に直結する。値上げへの備えとしても、滞納の回収は先に手をつけておきたい。
値上げを断ること自体は組合の正当な判断だが、いまは断った先に相手が降りる可能性がある。その前提で交渉に臨むかどうかで、結果は変わってくる。
※管理費・修繕積立金の額、滞納の割合は、国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」による。法改正は「マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則の一部を改正する省令」(令和7年国土交通省令第102号)による。
【合わせて読みたい】
・マンション管理組合は何もしなくてもOK? 「第三者管理」の落とし穴
・マンションを購入するなら管理で選べ 管理組合役員目線からのチェックポイント
・マンションを購入するなら管理で選べ マンション管理のチェックポイント(上級編)







